日本橋人形町の料亭、よし梅 芳町亭でのグループ展『うるわしいもの』を終えました。
ご来場いただきました皆さま、ご支援くださいました方々に御礼申し上げます。ありがとうございました。三日間のみじかい展示でしたが、私にとって得難い経験となりました。
参加作家の作品とともに展示を振り返ります。
最初の登場で恐れ入りますが、拙作の籠花入を。一階の床の間に、初田 徹 作「白錆花籃」。若女将の高野千彩さんに花を生けていただきました。
黒味を帯びた老翁柿(ロウヤガキ)と白く枯れはじめた笹の葉に、季節の移り変わり、秋の風情を感じます。この籠は内に編んだ網代の編み目が、経年によって徐々に色濃く変わってゆき、外に配した幅広の煤竹の色味とやがて逆転してゆく、その時間経過を感じていただきたい籠であることを、展示の前にお伝えしていたのですが、そのあたりも汲んで生けてくださったのではと思います。
軸は仕覆制作で参加された竹山佳佑さんの所蔵品です。その竹山さんによる仕覆を次にご紹介します。
仕覆のほかに、古帛紗も展示されました。
また、竹山さんはふだん銀座の古美術 桃青さんの仕覆教室の講師も務められています。今回、初対面だったのですが、物腰の柔らかい好青年とお見受けしました。
東京らしい急勾配の階段を二階へ上がると、広間に草野啓利さんの吹きガラスが並びます。
草野さんは水指や振出などの茶道具のほか、お皿やぐい呑、グラスなど食器も出品されました。春から夏のイメージのあるガラス器ですが、やや厚みをもって丸みを帯びた形状には温かさも感じられ、秋の器としても違和感なく使えるように思いました。
二階には拙作の花入、茶籠、茶杓、菓子切りなども展示させていただきました。
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よし梅 芳町亭は関東大震災後に建てられ、空襲の戦火を免れて現代まで受け継がれた現役の建築であり、現役の料亭です。
一日の展示を終える夕暮れ間近、開け放たれた窓から中庭を通った風が、淡い光の室内へ流れ込んでくるのを肌で感じると、そこに永井荷風や谷崎潤一郎がいても不思議ではないような気持ちになりました。
江戸情緒と、東京の歴史が消えることなく受け継がれる場所のひとつで、自分の作った籠や茶杓が三日間とは言え歴史の一部になったことを、嬉しく思いつつ振り返っています。
よし梅 芳町亭(yoshi cho tei)、よし梅 人形町本店はいずれも地下鉄の人形町駅から徒歩1分ほどの場所にあります。古き良き江戸・東京の面影を探しに訪ねてみるのも一興ではないでしょうか。
今回も展示へのご来場、まことにありがとうございました。秋分、じき中秋、よい秋をお過ごしください。