ことし2020年は茶籠にはじまりました。ちょうど昨年末の今頃は、茶箱の核となる野口以織さんの井戸茶碗から道具を組み、籠づくりへと忙しくしていました。
茶籠が仕上がって最初の春を迎えた時には、国内国外とも流行病の渦中、籠を携えて遠くへ出かける機会もなく、そのまま一年を終えようとしています。
私自身は旅の機会をもたなかったものの、今年も数多くの籠や茶杓、菓子切りなどが私の代わりに旅をしました。お求めいただき、どうもありがとうございます。
渡り鳥とともに、前の冬に訪れたこの鳥は、籠とともにまた遠い場所へ旅立ちました。やがて世界が落ち着いた頃には、持ち主とともに茶を喫しながら幾つもの土地を旅することになるでしょう。
こちらの籠は、淡交社の茶道雑誌『なごみ』の茶箱特集のために制作しました。「竹工芸家、茶籠制作の記」と題して編集者さんと記事を作っていた時には、今のような状況を迎えるとはまだ知るよしもなく。
この写真の場所に私は確かに腰を下ろして、火を起こし湯を沸かし、薄茶を点てていたはずなのに、今となっては夢幻のように思えます。
今年はふたつの個展を延期ました。ひとつは東京、もうひとつは初めての場所での展示です。来年、2021年の春以降に実現できればと考えています。
2021年も茶籠を作るつもりです。野点のできる世界がいつ戻ってくるかは分かりませんが、籠をつくっておけば、たとえ来年ではなくても10年後、50年後、100年後の誰かのお茶に繋がってゆくでしょう。
ずっと先の世界を想像しながら、いまを作ります。